怎《ど》うしたんでせう、今方々探したんですけれど。』
『学校ですよ、屹度。』と清子が傍から言ふ。
『オヤ、日向|様《さん》は?』と、静子は周囲を見廻す。
智恵子は立ち上つた。
『此処にゐらしつたわ!』
『立つてると何だかフラ/\して、私蹲んでゐましたの、先刻《さつき》から。』
『然う! まだお悪いんぢやなくつて。』と静子は思遣深い調子で言つた。そして(悪いところをお誘ひしたわねえ)(家へ帰つてお寝みなすつては?)と、同時に胸に浮んだ二つの言葉は、何を憚《はばか》つてか言はずに了つた。
『何処かお悪くつて?』と、清子は医師の妻。
『否《いいえ》、少許《すこし》……モ少し見たら私帰りますわ。』
(十一)の五
さうしてる間にも、清子は嫁の身の二三度家へ行つて見て来た。その度、吉野に来て一杯《ひとつ》飲めと加藤の言伝《ことづて》を伝へた。
信吾は来ない。
月は高く上つた。其処此処の部落から集つて来て、太鼓は十二三挺に増えた。笛も三人|許《ばか》り加はつた。踊の輪は長く/\街路《みち》なりに楕円形になつて、その人数は二百人近くもあらう。男女、事々しく装つたのもあれば、平常服
前へ
次へ
全217ページ中190ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング