と俯向いた儘で、
『私今日、アノ、困つた事を致しました!』
『……何です、困つた事ツて?』
智恵子は不図顔を上げて、何か辛さうに男を仰いだ。
『アノ、私小川様を憤《おこ》らして帰してよ。』
『小川を※[#疑問符感嘆符、1−8−77] 怎《ど》うしたんです?』
『そして、瞭然《きつぱり》言つて了ひましたの。……貴方には甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》に御迷惑だらうと思つて、後で私……』
『解りました、智恵子様!』
恁《か》う言つて、吉野は強く女の手を握つた。
『然《さ》うでしたか!』と、ガツシリした肩を落す。
智恵子はグンと胸が迫つた。と同時に、腹の中が空虚《からつぽ》になつた様でフラ/\とする。で、男の手を放して人々の後《うしろ》に蹲《しやが》んだ。
目の前には真黒な幾本の足、彼方《かなた》の篝火がその間から見える。――智恵子は深い谷底に一人落ちた様な気がした。涙が溢れた。
『アラ、先刻《さつき》から被来《いらし》つて?』と背後《うしろ》に静子の声。
吉野の足は一二尺動いた。
『今来た許りです。』
『然うですか! 兄は
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