》を入れた。続いた太鼓が皆それを遣る。調子を代へる合図だ。踊の輪は淀んで唄が止む、下駄の音がゾロ/\と縺《もつ》れる。
(ドヾドコドン、ドコドン――)
と新しく太鼓が鳴り出す。――ヨサレ節といふのがこれで。――淀んだ輪がまたそれに合せて踊り始める。何処やらで調子はづれた高い男の声が、最先に唄つた――
(ヨサレ―茶屋のか―アかア、花染―の―たす―き―イ――)
『面白いですねえ。』と、吉野は智恵子を振返つた。『宛然《まるで》古代《むかし》に帰つた様な気持ぢやありませんか!』
『えゝ。』
智恵子は踊にも唄にも心を留めなかつた様に、何か深い考へに落ちた態《さま》で、悩まし気に立つてゐた。
と見た吉野は、
『貴女何処かまだ悪いんぢやないんですか! お体の加減が。』
『否《いいえ》、たゞ少許《すこし》……』
俄かに見物が笑ひどよめく。今しも破蚊帳《やぶれがや》を法衣《ころも》の様に纏《まと》つて、顔を真黒に染めた一人の背の高い男が、経文《おきやう》の真似をしながら巫山戯《ふざけ》て踊り過ぎるところで。
『吉野|様《さん》!』
智恵子は思切つた様に恁う囁いた。
『何です?』
『アノ……』と、眤
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