」はママ]、静子|様《さん》。』と加藤が口を出す。
『お客様を横取りする訳ぢやないんです。一週間許り吉野|様《さん》を拝借したいんで……直ぐお返ししますよ。』
『ホヽヽ、左様で御座いますか!』と愛想よく言つたものの、静子の心は無論それを喜ばなかつた。
吉野は無理矢理に加藤に引張《ひつぱり》込まれた。女連は霎時《しばし》其処に腰を掛けてゐたが、軈《やが》て清子も一緒になつて出た。
町の恰度|中央《なかほど》の大きい造酒家《さかや》の前には、往来に盛んに篝火《かがり》を焚いて、其|周囲《めぐり》、街道《みち》なりに楕円形な輪を作つて、踊が初まつてゐる。輪の内外《うちそと》には沢山の見物。太鼓は四挺、踊子は男女《をとこをんな》、小供らも交つて、まだ始まりだから五六十人位である。太鼓に伴《つ》れて、手振足振面白く歌つて廻る踊には、今の世ならぬ古色がある。揃ひの浴衣に花笠を被つた娘等《むすめども》もある。編笠に顔を蔽《かく》して、酔つた身振の可笑《をかし》く、唄も歌はずに踊り行く男もある。
月は既に高く上つて、楽気に此群を照した。女連は、睦気《むつまじげ》に語りつ笑ひつし乍ら踊を見てゐた。
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