《うしろ》から静子は、
『梅ちやん、先生は?』
と優しく言ひながら近づいた。
静子は直ぐ気が付いた。梅ちやんの着てゐる紺絣《こんがすり》の単衣《ひとへ》、それは嘗て智恵子の平常着《ふだんぎ》であつた!
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あな我が君のなつかしさよ、
まみゆる日ぞまたるる。
君は谷の百合、峰のさくら、
うつし世にたぐひもなし。
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家《うち》の中からは幽かに讃美歌の声が洩れる。信吾は居ない! 恁う吉野は思つた。
『先生! 先生!』と、梅ちやんは門口から呼ぶ。
(十一)の三
智恵子に訊くと、信吾は一時間許り前に帰つたといふ。
『マア何処へ行つたんでせうねえ。夕方までに帰つて、私達と一緒に再《また》出かける筈でしたのよ。これから何処へ行くとも何とも言はなかつたんでせうか?』
『否《いいえ》、何とも別に。』と言つて、智恵子は意味|有気《ありげ》な目で吉野を仰いで、そして俯向いた。
『歩いてゐたら逢ふでせうよ。』と吉野は鷹揚に言つた。『怎《ど》うです。日向|様《さん》も被行《いらつしや》いませんか、盆踊を見に?』
『ハ。……マアお茶でも召
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