、第4水準2−94−57]《あんな》人だと思つてれヤ可《い》いわ。』
 静子は、その富江が山内の艶書を昌作に呉れた事を話さうかと思つたが、何故か二人の間が打解けてゐない様な気がして、止めて了つた。三十分許り経つて暇乞をした。
 二人は相談した様に、吉野のことは露程も口に出さなかつた。
 静子が家《うち》へ帰ると、信吾は待ち構へてゐたといふ風に自分の室へ呼んで、そして、何か怒つてる様な打切棒《ぶつきらぼう》な語調《てうし》で、智恵子の事を訊いた。
 静子は有《あり》の儘に答へた。
『然うか!』
と言つた信吾の態度《やうす》は、宛然《さながら》、其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]事は聞いても聞かなくても可いと言つた様であつたが、静子は征矢《そや》の如く兄の心を感じた。そして、何といふ事なしに、
『兄様《にいさん》に宜敷と言つてよ、智恵子|様《さん》が!』
と言つて見た。智恵子は何とも言つたのではないが。
『然うか!』と、信吾は再《また》卒気《そつけ》なく答へた。
 そして、昼飯が済むと、フラリと一人出て、町へ行つた。
 信吾が出かけて間もなくで
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