ある。月の初めに子供らを伴れて来た盛岡の叔母が、見知らぬ一人の老人《としより》を伴れて来た。叔母は墓参の為と披露した。連の男は松原家から頼まれて来たのだとは直ぐ知れた。言ふまでもなく静子の縁談の事で。
父の信之、祖父の勘解由《かげゆ》、母お柳、その三人と松原家の使者《つかひ》とは奥の間で話してゐる。叔母も其席に出た。静子は今更の様に胸が騒ぐ。兄の居ないのが恨めしい。若しや此話から、自分と死んだ浩一との事が吉野に知れはしないかと思ふと、その吉野にも顔を見せたくなかつた。
室《へや》に籠つたり、台所へ行つたり、庭に出たり、兎角して日も暮れかかつた。信吾はそれでも帰つて来ない。夕方から一緒に盆踊を見に行く筈だつたのだが。
晩餐の時、媒介者《なかうど》が今夜泊るのだと叔母から話された。信吾は全然《すつかり》暗くなつても帰らぬ。母お柳の勧めで、兄とは町へ行つて逢ふことにして、静子は吉野と共に小妹《いもうと》達や下女を伴れて踊見物に出ることになつた。
(十一)の二
恰度《ちやうど》鶴飼橋へ差掛つた時、円い十四日の月がユラ/\と姫神山の上に昇つた。空は雲|一片《ひとつ》なく穏か
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