吉野に対《むか》つて頻《しき》りに水泳に行く事を慫慂《すす》めた。昌作の吉野に対する尊敬が此時からまた加つた。
 其翌日か翌々日、叔母と其子等は盛岡に帰つて行つた。この叔母は、数ある小川家の親籍の中でも、殊更お柳と気心が合つてゐた。といふよりは、夫が非職の郡長上りか何かで、家が余り裕《ゆた》かで無いところから、お柳の気褄《きづま》を取つては時々|恁《か》うして遣つて来て、その都度|家計向《うちむき》の補助《たすけ》を得てゆくので。お柳は、松原からの縁談がモウ一月の余《よ》もバタリと音沙汰がないのを内々心配してゐたので、密かにこの叔母に相談した。女二人の間には人知れず何事かの手筈が決められた。叔母は素知らぬ顔をして帰つて了つた。
 叔母を送つて好摩の停車場《ステイシヨン》に行つた下男と下女は、新しい一人の人物《ひと》を小川家に導いて帰つた。それは外ではない、信之の次男、静子とは一歳劣《ひとつおと》りの弟の、志郎といふ士官候補生だ。
 志郎は兄弟中での腕白者、お柳の気には余り入らぬが、父の信之からは此上なく愛されてゐる。静子と縁談の持上つてゐる松原家の三男の狷介《けんすけ》とは小い時からの
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