》を、智恵子とお利代が強《た》つて勧めて乾かして呉れたのだ。その間、吉野は誰の衣服を着てゐたか!
『智恵子! 智恵子!』
と吉野の心は叫んだ。密《そつ》と左の二の腕に手を遣つて見た。其処に顔を押付けて、智恵子は何と言つた※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
『貴方は……貴方は……!』
(十)の一
吉野が新坊の生命を救けた話は、翌朝朝飯の際に吉野自身の口から、簡単に話された。
同じ話がまた、前夜其場に行合せた農夫《ひやくしやう》が、午頃《ひるごろ》何かの用で小川家の台所に来た時、稍《やや》詳しく家中の耳に伝へられた。成年者《としより》達は心から吉野の義気に感じた様に、それに就いて語つた。信吾と静子は、顔にも言葉にも現されぬ或る異つた感想《かんじ》を抱かせられた。
昌作はまた、若しもそれが信吾によつて為された事なら甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》にか不愉快を感じたらうが、何がなしに虫の好く吉野だつたので、その豪いことを誇張して継母《はは》などに説き聞せた。そして、かの橋下の瀬の迅《はや》い事が話の起因《おこり》で、
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