詩《リリツク》が残つてます。先刻《さつき》も一人歩いてゐて然う思つたんですが、この静かな広い天地に自分は孤独《ひとりぼつち》だ! と感じてもですね、それが何だか恁《か》う、嬉しい様な気がするんです。切迫塞つた苦しい、意識を刺戟する感想《かんじ》でなくて、余裕のある、叙情的《リリカル》な調子《トーン》のある……畢竟《つまり》周囲《あたり》の空気がロマンチツクだから、矢張夢の様な感想ですね。……僕は苦しくつて怺《たま》らなくなると何時でも田舎に逃出すんです。今度も然うです、畢竟《つまり》、僕自身にもまだロマンチツクが沢山《うんと》残つてます。自分の芸術から言へば出来るだけそれを排斥しなきや不可《いけな》い。然しそれが出来ない! 抽象的に言ふと、僕の苦痛が其努力の苦痛なんです。そして結局の所――』と激した語調《てうし》で続けて来て、
『結局の所、何方《どつち》が個人の生存――少くとも僕一個人の生存に幸福であるか解らない!』と声を落した。
智恵子は眤《じつ》と俯《うつ》むいて、出来る丈男の言ふ事を解さうと努めながら歩いてゐた。
『貴女は寂しい――孤独《ひとりぼつち》だと思ふことがありますか?
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