九)の四
昼は足を※[#「燬」の「臼」に代えて「白」、264−上−8]《や》く川原の石も、夜露を吸つて心地よく冷えた。処々に咲き乱れた月見草が、暗《やみ》に仄かに匂うてゐる。その間を縫うて、二人はそこはかとなく逍遙《さまよ》うた。
『その感想《かんじ》――孤独の感想《かんじ》がですね。』と、吉野は平生《いつも》の興奮した語調《てうし》で語り続けてゐた。『大都会の中央の轟然たる百万の物音の中にゐて感ずる時と、恁うした静かな村で感ずる時と、それア違ひますよ。矢張《やつぱり》何ですかね、新しい文明はまだ行き渡つてゐないんで、一歩都会を離れると、世界にはまだ/\ロマンチツクが残つてるんですね。畢竟《つまり》夢が残つてるんですね。』
『ハ!』
『夢を見る暇もない都会の烈しい戦争の中で、間断《ひつきり》なしの圧迫と刺戟を享けながら、切迫塞《せつぱつま》つた孤独の感を抱いてる時ほど、自分の存在の意識の強い事はありませんね。それア苦しいですよ。苦しいけれど、矢張新しい生活は其烈しい戦争の中で営まれるんですね。……が、です、田舎へ来ると違ひます。田舎にはロマンチツクが残つてます。夢が残つてます、叙情
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