すねえ!』
『えゝ。』
 不図話が断《き》れた。橋の下の川原には、女児等《こどもら》が夢中になつて螢を追つてゐる。
 智恵子は、胸を欄干に推当てた故《せゐ》か、幽かに心臓の鼓動が耳に響く。其《その》間《ま》にも崖の木の葉が、光り又消える。
『貴女は、時々|被来《いらつしや》るんですか、此処等《ここいら》に?』
『否。……滅多に夜は出ませんですけれど。……今日は余り暑かつたもんで御座いますから!』
『あゝ然《さ》うですか!』
 話はまた断《た》れた。
『随分沢山な螢で御座いますねえ!』と、今度は智恵子が言つた。
『えゝ、東京ぢや迚《とて》も見られませんねえ。』
『左様で御座いませうねえ。』
『ア、貴女は以前東京に被居《いらしつ》たんですつてね?』
『え。』
『余程《よつぽど》以前ですか?』
『六七年前までゝ御座います。』
『然うでしたか!』と、吉野はただ何か言はうとしたが、立入つた身上《みのうへ》の話と気が付いて、それなり止めた。
 二人は又|接穂《つぎほ》なさに困つた。そして長い事|黙《もだ》してゐた。吉野は既《も》う顔の熱《ほて》りも忘られて、酔醒《よひざめ》の佗しさが、何がなしの心
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