考へ乍ら、裏畑の細径伝《ほそみちづた》ひ急ぎ足に家へ帰つた。
『誰方《どなた》も被来《いらつしや》らなくつて?』
『否《いえ》。』とお利代は何気ない顔をしてゐる。『アラ、何処へ行つてらしつたんですか? お髪《ぐし》に木の葉が附いて。』
『然う?』と手を遣つて見て、『学校の後《うしろ》の山を歩いて見ましたの。』
『お一人で!』
『否《いえ》、子供達と。』と、ウツカリ言つたが、智恵子は妙に気が引けた。
『先生、俺《おら》も行きたいなア。』と梅ちやんが甘える。
『俺《おら》も、俺も。』と新坊は気早に立ち上つて雀躍《こをどり》する。
『ホホヽヽ。モウ行つて来たの。この次にね。』と言ひ乍ら、智恵子は己《おの》が室《へや》に入つた。
来なかつた! と思ふと、ホツと安心した様な気持だ。と又、今にも来るかといふ新しい心配が起る。戸外《おもて》を通る人の跫音が、急《いそが》しく心を乱す。戸口の溝の橋板が鳴る度、押へきれぬ程動悸がする。
『奈何《どう》したといふのだらう?』と自分の心が疑はれる。莫迦な! と叱つても矢張気が気でない。強ひて書《ほん》を読んで見ても、何が書いてあつたか全然《まるで》心に留ら
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