忽ち顔が火の様に熱《ほて》つて、恐ろしく動悸がしてるのに気がついた。
(八)の二
加藤の玄関を出た智恵子は、無意識に足が学校の方へ向つた。莫迦に胸騒ぎがする。
『何故《なぜ》那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《あんな》に狼狽へたらう?』
恁う自分で自分に問うて見た。
『何故那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]に狼狽へたらう? 吉野|様《さん》が被来《いらしつ》てゐたとて! 何が怖かつたらう! 清子|様《さん》も可笑《をかし》いと思つたであらう! 何故那※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]に狼狽へたらう? 何も理由が無いぢやないか!』
理由は無い。
智恵子は一歩《ひとあし》毎に顔が益々|上気《のぼせ》て来る様に感じた。何がなしに、吉野と昌作が背後《うしろ》から急足《いそぎあし》で追駆《おつか》けて来る様な気がする。それが、一歩《ひとあし》々々に近づいて来る……………
其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−
前へ
次へ
全217ページ中123ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング