に圧迫を感じてるので。
それを紛らかさうとして、何か話を始め様としたが、兎角《とかく》、言葉が喉に塞《つま》る。其※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《そんな》筈はないと自分で制しながらも、断々《きれぎれ》に、信吾が此女を莫迦《ばか》に讃めてゐた事、自分がそれを兎や角|冷《ひや》かした事を思出してゐたが、腰を掛けるを切懸《きつかけ》に、
『貴女は何日《いつ》お帰りになります?』と何気なく口を切つた。
『三日に、アノ帰らうと思つてます。』
『然うですか。』
『貴方は?』
『僕は何日でも可いんですが、矢張三日頃になるかも知れません。』と言つたが、不図思ひついた事がある様に、『貴女は盛岡の中学に図画の教師をしてゐる男を御存じありませんか? 渡辺金之助といふ?』
『存じて居ります。』と、智恵子は驚いた様な顔をする。『貴方はアノ、那《あ》の方と同じ学校を……?』
『然《さ》うです。美術学校で同級だつたんですが、……あゝ御存じですか! 然うですか!』と鷹揚に頷いて、『甚※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな
前へ
次へ
全217ページ中107ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング