児が人一倍|悪戯《わるさ》に長《た》けて、横着で、時にはその生先《おひさき》が危まれる様な事まで為出《しで》かす為には違ひないが、一つは渠の性質に、其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《そんな》事をして或る感情の満足を求めると言つた様な点《ところ》があるのと、又、然うする方が他の生徒を取締る上に都合の好い為でもあつた。渠が忠一を虐《いぢ》めることが厳しければ厳しい程、他の生徒は渠を偉い教師の様に思つた。
そして、女教師の孝子にも、健の其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《そんな》行動《しうち》が何がなしに快く思はれた。時には孝子自身も、人のゐない処へ忠一を呼んで、手厳しく譴《たしな》めてやることがある。それは孝子にとつても或る満足であつた。
孝子は半年前《はんねんまへ》に此学校に転任して来てから、日一日と経つうちに、何処の学校にもない異様な現象を発見した。それは校長と健との妙な対照で、健は自分より四円も月給の安い一代用教員に過ぎないが、生徒の服してゐることから言へば、健が校長の様で、校長の安藤は
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