様に出来たか?』
『ハイ。』
『若し粗末だつたら、明日また為直《しなほ》させるぞ。』
『ハイ。立派に出来ました。』
『好し。』と言つて、健は莞爾《につこり》して見せる。『それでは一同《みんな》帰しても可い。お前も帰れ。それからな、今先生が行くから忠一だけは教室に残つて居れと言へ。』
『ハイ。』と、生徒の方も嬉しさうに莞爾《につこり》して、活溌に一礼して出て行く。健の恁※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《こんな》訓導方《しつけかた》は、尋常二年には余りに厳《きび》し過《すぎ》ると他の教師は思つてゐた。然しその為に健の受持の組は、他級の生徒から羨まれる程規律がよく、少し物の解つた高等科の生徒などは、何彼につけて尋常二年に笑はれぬ様にと心懸けてゐる程であつた。
軈《やが》て健は二階の教室に上つて行く。すると、校長の妻は密乎《こつそり》と其後を跟《つ》けて行つて、教室の外から我が子の叱られてゐるのを立聞《たちぎき》する。意気地なしの校長は校長で、これも我が子の泣いてゐる顔を思ひ浮べながら、明日の教案を書く……
健が殊更校長の子に厳しく当るのは、其
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