足跡
石川啄木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)村端《むらはづれ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)葉|一片《ひとつ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)クリ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 冬の長い国のことで、物蔭にはまだ雪が残つて居り、村端《むらはづれ》の溝に芹《せり》の葉|一片《ひとつ》青《あを》んではゐないが、晴れた空はそことなく霞んで、雪消《ゆきげ》の路の泥濘《ぬかるみ》の処々乾きかゝつた上を、春めいた風が薄ら温かく吹いてゐた。それは明治四十年四月一日のことであつた。
 新学年始業式の日なので、S村尋常高等小学校の代用教員、千早健《ちはやたけし》は、平生より少し早目に出勤した。白墨《チヨオク》の粉に汚れた木綿の紋付に、裾の擦切れた長目の袴を穿いて、ク
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