板《ぬりいた》も有《も》たせねばならぬかとか、父兄は一人々々同じ様な事を繰返して訊く。孝子は一々それに答へる。すると今度は健の前に叩頭《おじぎ》をして、小供の平生《へいぜい》の行状やら癖やら、体の弱い事などを述べて、何分よろしくと頼む。新入生は後から/\と続いて狭い職員室に溢れた。
忠一といふ、今度尋常科の三年に進んだ校長の長男が、用もないのに怖々《おづおづ》しながら入つて来て、甘える様《やう》の姿態《しな》をして健の卓《つくゑ》に倚掛《よりかか》つた。
『彼方《あつち》へ行け、彼方へ。』
と、健は烈しい調子で、隣室にも聞える様に叱つた。
『ハ。』
と言つて、猾《ずる》さうな、臆病らしい眼付で健の顔を見ながら、忠一は徐々《そろそろ》と後退《あとしざ》りに出て行つた。為様《しやう》のない横着《わうぢやく》な児で、今迄健の受持の二年級であつたが、外の教師も生徒等も、校長の子といふのでそれとなく遠慮してゐる。健はそれを、人一倍厳しく叱る。五十分の授業の間を教室の隅に立たして置くなどは珍しくもない事で、三日に一度は、罰として放課後の教室の掃除当番を吩付《いひつ》ける。其※[#「麾」の「毛」に
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