に学務委員を兼ねてゐる。
『出しましたよ。』と、健は平然《けろり》として答へた。
『真箇《ほんと》すか?』と東川は力を入れる。
『ハヽヽヽ。』
『だハンテ若い人は困る。人が甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》に心配してるかも知らないで、気ばかり早くてさ。』
『それ/\、煙草の火が膝に落ちた。』
『これだ!』と、呆れた様な顔をしながら、それでも急いで吸殻を膝から払ひ落して、『先生、出したつても今日の事だがら、まだ校長の手許にあるベアハンテ、今の間《うち》に戻してござれ。』
『何故《なぜ》?』
『いやサ、詳しく話さねえば解らねえが……実はなす、』
と穏かな調子になつて、『今日何も知らねえで役場さ来てみたのす。そすると種市助役が、一寸別室、て呼ぶだハンテ、何だど思つて行つて見だば先生の一件さ。昨日逢つた時、明日辞表を出すつてゐだつけが、何しろ村教育も漸々《やうやう》発展の緒に就いた許りの時だのに、千早先生に罷められては誠に困る。それがと言つて今は村長も留守で、正式に留任勧告をするにも都合が悪い。何《いづ》れ二三日中には村長も帰るし、七日に
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