の画を思出すことがありますの。それは先生は、無論一生を教育事業に献げるお積りではなく、お家の事情で当分あゝして居られるのでせうが、私は恁※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《こんな》人を長く教育界に留めて置かぬのが、何より残念な事と思ひます。先生は何か人の知らぬ大きな事を考へて居られる様ですが、私共には分りません。然しそのお話を聴いてゐると、常々私共の行きたい/\と思つてる処――何処《どこ》ですか知りませんが――へ段々連れて行かれる様な気がします。そして先生は、自分は教育界|獅子《しし》身中の虫だと言つて居られるの。又、今の社会を改造するには先づ小学教育を破壊しなければいけない、自分に若し二つ体があつたら、一つでは一生代用教員をしてゐたいと言つてます。奈何《どう》して小学教育を破壊するかと訊くと、何有《なあに》ホンの少しの違ひです、人を生れた時の儘《まんま》で大きくならせる方針を取れや可いんですと答へられました。
『然し秀子さん、千早先生は私にはまだ一つの謎です。何処か分らないところがあります。ですけれども、毎日同じ学校にゐて、毎日先生の為さる
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