偶《たま》に先生が欠勤でもすると、私が掛持で尋常二年に出ますの。生徒は決して私ばかりでなく、誰のいふことも、聞きません。先生の組の生徒は、先生のいふことでなければ聞きません。私は其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]時、「千早先生はさう騒いでも可《い》いと教へましたか?」と言ひます。すると、直ぐ静粛になつて了ひます。先生は又、教案を作りません。その事で何日《いつ》だつたか、巡《まは》つて来た郡視学と二時間許り議論をしたのよ。その時の面白かつたこと? 結局視学の方が敗けて胡麻化《ごまくわ》して了つたの。
『先生は尋常二年の修身と体操を校長にやらして、その代り高等科(校長の受持)の綴方と歴史地理に出ます。今度は千早先生の時間だといふ時は、鐘が鳴つて控所に生徒の列んだ時、その高等科の生徒の顔色で分ります。
『尋常二年に由松といふ児があります。それは生来《うまれつき》の低脳者で、七歳《ななつ》になる時に燐寸《マツチ》を弄《もてあ》そんで、自分の家《うち》に火をつけて、ドン/\燃え出すのを手を打つて喜んでゐたといふ児ですが、先生は御自分の一心で是非由松を
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