房具店も出来た。就中《なかんづく》破天荒な変化と云ふべきは、電燈会社の建つた事、女学生の靴を穿く様になつた事、中津川に臨んで洋食店《レストウラント》の出来た事、荒れ果てた不来方城《こずかたじやう》が、幾百年来の蔦衣《つたごろも》を脱ぎ捨てて、岩手公園とハイカラ化した事である。禿頭《はげあたま》に産毛が生えた様な此旧城の変方《かはりかた》などは、自分がモ少し文学的な男であると、『噫、汝|不来方《こずかた》の城よ※[#感嘆符三つ、36−上−12] 汝は今これ、漸くに覚醒し来れる盛岡三万の市民を下瞰しつつ、……文明の儀表なり。昨《さく》の汝が松風明月の怨《うらみ》長《とこし》なへに尽きず……なりしを知るものにして、今来つて此盛装せる汝に対するあらば、誰かまた我と共に跪づいて、汝を讚するの辞なきに苦しまざるものあらむ。疑ひもなく汝はこれ文明の仙境なり、新時代の楽園なり。……然れども思へ、――我と共に此一片の石に踞して深く/\思へ、昨日《きのふ》杖を此城頭に曳いて、鐘声を截せ来る千古一色の暮風に立ち、涙を萋々《さいさい》たる草裡《さうり》に落したりし者、よくこの今日あるを予知せりしや否や。……然
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