夏が和した。二人は、手に手を放つて踊り出した。
踊といつても、元より狂人の亂雜である。足をさらはれてお夏の倒れることもある。※[#「てへん+堂」、第4水準2−13−41]《どう》と衝《つ》き當つて二人共々重なり合ふ事もある。繁が大公孫樹の幹に打衝《ぶつつか》つて度を失ふ事もある。そして、恁《か》ういふ事のある毎に、二人は腹の底から出る樣な聲で笑つて/\、笑つて了へば、『ヨシキタホラ/\』とか、『ソレヤマタドッコイショ』とか、『キタコラサッサ』とか調子をとつて再び眞面目に踊り出すのである。
玲々《さや/\》と聲あつて、神の笑《ゑま》ひの如く、天上を流れた。――朝風の動き初めたのである。と、巨人は其|被《き》て居る金色の雲を斷《ちぎ》り斷つて、昔ツオイスの神が身を化《け》した樣な、黄金の雨を二人の上に降らせ始めた。嗚呼、嗚呼、幾千萬片の數の知れぬ金地の舞の小扇が、縺《もつ》れつ解《と》けつヒラ/\と、二人の身をも埋むる許り。或ものは又、見えざる絲に吊らるる如く、枝に返らず地に落ちず、光《つや》ある風に身を揉ませて居る。空に葉の舞、地の人の舞! 之を見るもの、上なるを高しとせざるべく、下
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