心《をさなごゝろ》にも猶この葬式が普通でない事、見すぼらしい事を知つて、行く路々ひそかに肩身の狹くなるを感じたのであつた。されば今、かの六人の遽々然たる歩振を見て、よく其心をも忖度する事が出來たのである。
これも亦一瞬。
列の先頭と併行して、櫻の※[#「木+越」、第3水準1−86−11]《なみき》の下を來る一團の少年があつた。彼等は逸早くも、自分と共に立つて居る『警告者』の一團を見付けて、駈け出して來た。兩團の間に交換された會話は次の如くである。
『何處のがんこ[#「がんこ」に傍点]だ?』『狂人《ばか》のよ、繁《しげる》のよ。』『アノ高沼《たかぬま》の繁狂人《しげるばか》のが?』『ウム然《さう》よ、高沼の狂人《ばか》のよ。』『ホー。』『今朝《けさ》の新聞にも書かさつて居だずでや、繁《しげ》ア死んで好《え》えごどしたつて。』『ホー。』
高沼繁《たかぬましげる》? 狂人繁《ばかしげる》! 自分は直ぐ此名が決して初對面の名でないと覺つた。何でも、自分の記憶の底に沈んで居る石塊《いしころ》の一つの名も、たしか『高沼繁』で、そして此名が、たしか或る狂人の名であつた樣だ。――自分が恁う感じた
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