り、更に、その不健全な状態を昂進《こうしん》すべき色々の手段を採って得意になるとしたら、どうであろう。その結果は言うまでもない。もし又、そうしなければ所謂《いわゆる》「新らしい詩」「新らしい文学」は生れぬものとすれば、そういう詩、そういう文学は、我々――少くとも私のように、健康と長寿とを欲し、自己及自己の生活(人間及人間の生活)を出来るだけ改善しようとしている者に取っては、無暗《むやみ》に強烈な酒、路上ででも交接を遂げたそうな顔をしている女、などと共に、全然不必要なものでなければならぬ。時代の弱点を共有しているという事は[#「時代の弱点を共有しているという事は」に白丸傍点]、如何なる場合の如何なる意味に於ても[#「如何なる場合の如何なる意味に於ても」に白丸傍点]、かつ如何なる人に取っても決して名誉ではない[#「かつ如何なる人に取っても決して名誉ではない」に白丸傍点]。
 性急《せっかち》な心! その性急な心は、或は特に日本人に於て著るしい性癖の一つではあるまいか、と私は考える事もある。古い事を言えば、あの武士道というものも、古来の迷信家の苦行と共に世界中で最も性急な道徳であるとも言えば
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