なき意外の好天気と相成、明け放したる窓の晴心地に、壁上のベクリンが画幀《ぐわてい》も常よりはいと鮮やかに見られ候。只今三時間|許《ばか》り、かねて小生の持論たる象徴芸術の立場より現代の思想、文芸に対する挑戦の論策を編まむ下心にて、批評|旁々《かたがた》、著者嘲風先生より送られたる「復活の曙光」繙読《ほんどく》致候。然しこれは、到底この短き便りに述べ尽し難き事に候へば、今日は品を代へて一寸、盛中校友会雑誌[#「盛中校友会雑誌」に傍点]のために聊《いささ》か卑見申進むべく候。或は之れ、なつかしき杜陵の母校の旧恩に酬《むく》ゆる一端かとも被存候《ぞんぜられさふらふ》。
此雑誌も既に第六号を刊行するに至り候事、嬉しき事に候へど、年齢に伴なふ思想の発達著るしからざるに徴すれば、精神的意義に乏しき武断一偏の校風が今猶勢力を有する結果なるべくと、婆心また多少の嗟嘆なき不能候。嘗《かつ》て在校時代には小生もこれが編輯の任に当りたる事有之候事とて、読過の際は充分の注意を払ひたる積りに御座候。
論文欄は毎号紙数の大多部を占むると共に、又常に比較的他欄より幼稚なる傾向有之候が、本号も亦其例外に立ち難く見
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