渋民村より
石川啄木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)杜陵《とりやう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)満城|桜雲《あううん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「虫+慈」、39−上−12]
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[#5字下げ]一[#「一」は中見出し]
杜陵《とりやう》を北へ僅かに五里のこの里、人は一日の間に往復致し候へど、春の歩みは年々一週が程を要し候。御地は早や南の枝に大和心《やまとごころ》綻《ほこ》ろび初め候ふの由、満城|桜雲《あううん》の日も近かるべくと羨やみ上げ候。こゝは梅桜《ばいあう》の蕾|未《いま》だ我瞳よりも小さく候へど、さすがに春風の小車《をぐるま》道を忘れず廻り来て、春告鳥《うぐひす》、雲雀《ひばり》などの讃歌、野に山に流れ、微風にうるほふ小菫の紫も路の辺に萌え出で候。今宵は芝蘭《しらん》の鉢の香りゆかしき窓、茶煙一室を罩《こ》め、沸る湯の音|暢《のび》やかに、門田の蛙さへ歌声《かせい》を添へて、日頃無興にけをされ
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