受けられ候。然れども巻頭の中館松生君[#「中館松生君」に丸傍点]が私徳論[#「私徳論」に丸傍点]の如きは、其文飛動を欠き精緻を欠くと雖《いへ》ども、温健の風、着実の見《ふう》、優に彼の気取屋党に一頭地を抜く者と被存候。斯《か》くの如き思想の若し一般青年間に流布するあらば、健全なる校風の勃興や疑ふ可からず候。同君の論旨が質朴謙遜に述べられてある丈《だけ》、小生も亦其保守的傾向ある所謂《いはゆる》私徳に対して仰々しく倫理的評価など下すまじく候。
此文を読みて小生は、論者の実兄にして吾等には先輩なる鈴木卓苗氏を思出だし候ひき。荒川君[#「荒川君」に丸傍点]の史論[#「史論」に丸傍点]は、何等事相発展の裡面に哲理的批判を下す文明的史眼の萌芽なきを以て、主観的なる吾等には興味少なく候へ共、其考証精密なる学者風の態度は、客気にはやる等輩中の一異色に候。小生は、単に過去の事蹟の記録統計たるに留まらば、歴史てふ興味ある問題も人生に対して亳《がう》も存在の意義を有せざる者なる事に就きて、深沈なる同君の考慮を煩はしたく存候。吾人の標準[#「吾人の標準」に丸傍点]とか題したる某君の国家主義論は、推断|陋劣
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