話は次の様なことであつた。――今度小樽に新らしい新聞が出来る。出資者はY――氏といふ名の有る事業家で、創業費は二万円、維持費の三万円を年に一万宛注込んで、三年後に独立経済にする計画である。そして、社長には前代議士で道会に幅を利かしてゐるS――氏がなるといふので。
『主筆も定つてる。』と友は言葉を亜《つ》いだ。『先《せん》にH――新聞にゐた山岡といふ人で、僕も二三度面識がある。その人が今編輯局編成の任を帯びて札幌に来てゐる。実は僕にも間接に話があつたので、今日行つて打突《ぶつか》つて見て来たのだ。』
『成程。段々面白くなつて来たぞ。』
『無論その時君の話もした。』と、熱心な調子で言つた。暗い町を肩を並べて歩き乍ら、稀なる往来《ゆきき》の人に遠慮を為《し》い/\、密《ひそ》めた声も時々高くなる。後藤君は暗い中で妙な手振をし乍ら、『僕の事はマア不得要領な挨拶をしたが、君の事は君さへ承知すれば直ぐ決《きま》る位に話を進めて来た。無論現在よりは条件も可ささうだ。それに君は家族が小樽に居るんだから都合が可いだらうと思ふんだ。』
『それア先《ま》アさうだ。が、無論君も行くんだらう?』
『其処だテ。奈
前へ
次へ
全25ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング