何《どう》も其処だテ――』
『何が?』
『主筆は十月一日に第一回編輯会議を開く迄に顔触れを揃へる責任を受負つたんで、大分|焦心《あせ》つてる様だがね。』
『十月一日! あと九日しかない。』
『然うだ。――実はね、』と言つて、後藤君は急に声を高くした。『僕も大いに心を動かしてる。大いに動かしてゐる。』
然うして二度許り右の拳を以て空気を切つた。
『それなら可いぢやないか?』と私も声を高めた。
『奈何《どう》せ天下の浪人共だ。何も顧慮する処はない。』
『其処だ。君はまだ若い。僕はも少し深く考へて見たいんだ。』
『奈何《どう》考へる?』
『詰りね、単に条件が可《い》いから行くといふだけでなくね――それは無論第一の問題だが――多少君、我々の理想を少しでも実行するに都合が好い――と言つた様な点を見付けたいんだ。』
[#地から一字上げ]〔生前未発表・明治四十一年八月稿〕
底本:「石川啄木全集 第三巻 小説」筑摩書房
1978(昭和53)年10月25日初版第1刷発行
1993(平成5年)年5月20日初版第7刷発行
※底本解説で、小田切秀雄が、1908(明治41)年8月と執筆時期を
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