の文明が進んだのだ。ハハヽヽ。』と後藤君は言出した。『君はまだ那※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《あんな》声を聞かうとするだけ若い。僕なんかは其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《そんな》暇はない。聞えても成るべく聞かぬ様にしてる。他《ひと》の事よりア此方《こつち》の事だもの。』
 然うしてズシリ/\と下駄を引擦り乍ら先に立つて歩く。
『実際だ。』と私も言つたが、狂人の声が妙に心を動かした。普通の人間と狂人との距離が其時ズツと接近して来てる様な気がした。『後藤君も苦しいんだ!』其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]事を考へ乍ら、私は足元に眼を落して黙つて歩いた。
『ところで君、徐々《そろそろ》話を初めようぢやないか?』と後藤君は言出した。
『初めよう。僕は先刻《さつき》から待つてる。』と言つたが、その実私は既《も》う大した話でも無い様に思つてゐた。
『実はね、マア好い方の話なんだが、然し余程考へなくちや決行されない点もある――』
 然う言つて後藤君の話した
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