で言ふと聞えるよ。何有《なあに》、道庁の学務課へ出てゐる小役人だがね。昔から壁に耳ありで、其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]《どんな》処から計画が破れるか知れないから喃《なあ》。』
『一体マア何の話だらう? 大層勿体をつけるぢやないか? 蓋許り沢山あつて、中には甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2−94−57]美味い饅頭が入つてるんか、一向アテが付かない。』
『ハハヽヽ。マア出懸けようぢやないか?』
で、二人は戸外に出た。後藤君は既《も》う蓋を取つた茶壺の事は忘れて了つた様であつた。私は、この煮え切らぬ顔をした三十男が、物事を恁うまで秘密にする心根に触れて、そして、見悄《みすぼ》らしい鳥打帽を冠り、右の肩を揚げてズシリ/\と先に立つて階段を降りる姿を見下し乍ら、異様な寒さを感じた。出かけない主義が、何も為出かさぬ間《うち》に活力を消耗して了つた立見君の半生を語る如く、後藤君の常に計画し常に秘密にしてゐるのが、矢張またその半生の戦ひの勝敗を語つてゐた。
札幌の秋の夜はしめやかであつた。其辺《そこら》は既《も》
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