の約束だつたが――』
『然うか。それでは僕の長居が邪魔な訳だね。近頃は方々で邪魔にしやがる。処で行先は何処だ?』
『ハハヽヽ。然う一々|他《ひと》の行先に干渉しなくても可いぢやないか。』
『秘《かく》すな! 何有《なあに》、解つてるよ、確乎《ちやん》と解つてるよ。高が君等の行動が解らん様では、これで君、札幌はいくら狭くつても新聞記者の招牌《かんばん》は出されないからね。』
『凄じいね。ところで今夜はマアそれにして置くから、お慈悲を以てこれで御免を蒙らして頂かうぢやないか?』
『好し、好し。今帰つてやるよ。僕だつて然う没分暁漢《わからずや》ではないからね、先刻御承知の通り。処でと――』と、腕組をして凝乎《じつ》と考へ込む態《ふう》をする。
『何を考へるのだ、大先生?』
『マ、マ、一寸待つてくれ。』
『金なら持つてないぜ。』
『畜生奴! ハハヽヽ、先を越しやがつた。何有《なあに》、好し、好し、まだ二三軒心当りがある。』
『それは結構だ。』
『冷評《ひやか》すない。これでも△△さんでなくては夜も日も明けないツて人が待つてるんだからね。然うだ、金崎の処へ行つて三両許り踏手繰《ふんだくつ》てやる
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