は生れてやつと九ヶ月にしかならなかつたが、来ると直ぐ忘れないでゐて私に手を延べた。
が、心がけては居たつたが、空家、せめて二間位の空間と思つても、それすら有りさうになかつた。困つて了つて宿の内儀に話をすると、
『然うですねえ。それでは恁《か》うなすつちや如何でせう、貴方のお室は八畳ですから、お家の見付かるまで当分此処で我慢をなさる事になすつては? さうなれば目形さんには別の室に移つて頂くことに致しますから。何で御座いませう、貴方方もお三人|限《きり》……?』
『まだ年老つた母があります。外にもあるんですが、それは今直ぐ来なくても可いんです。』
『マア然うですか、阿母《おつか》さんも御一緒に! ……それにしても立見さんの方よりは窮屈でない訳ですわねえ、当分の事ですから。』
話はそれに決つて、妻は二三日中に家財を纏めて来ることになつた。女同志は重宝なもので、妻は既う内儀と種々|生計向《くらしむき》の話などをしてゐる。
真佐子は、妻の来るとから私の子供を抱いて、のべつに頬擦りをし乍ら、家の中を歩いたり、外へ行つたりしてゐた。泣き出しさうにならなければ妻の許《ところ》に伴れて来ない。
『
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