つ》死の都、見よ。

かくやくの夏の日は、今
子午線の上にかかれり。

何方《いづかた》ゆ流れ来ぬるや、黒星よ、真北の空に
飛ぶを見ぬ。やがて大路の北の涯《はて》、天路に聳《そそ》る
層楼の屋根にとまれり。唖唖《ああ》として一声、――これよ
凶鳥《まがどり》の不浄の烏《からす》。――骨あさる鳥なり、はたや、
死の空にさまよひ叫ぶ怨恨《ゑんこん》の毒嘴《どくはし》の鳥。

鳥啼《な》きぬ、二度。――いかに、其声の猶《なほ》終らぬに、
何方ゆ現れ来しや、幾尺の白髪かき垂れ、
いな光る剣捧《ささ》げし童顔の翁《おきな》あり。ああ、
黒長裳《くろながも》静かに曳《ひ》くや、寂寞の戸に反響《こだま》して、
沓《くつ》の音全都に響き、唯一人大路を練れり。
有りとある磁石の針は
子午線の真北を射せり。


  角笛《つのぶえ》

みちのくの谷の若人、牧の子は
若葉衣の夜心に、
赤葉の芽ぐみ物燻《く》ゆる五月《さつき》の丘の
柏《かしは》木立をたもとほり、
落ちゆく月を背に負ひて、
東白《しののめ》の空のほのめき――
天《あめ》の扉《と》の真白き礎《もと》ゆ湧く水の
いとすがすがし。――
ひたひたと木
前へ 次へ
全31ページ中9ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング