むげん》の海の底。
偉霊のちからこもれる其《その》胸に
永劫《えいごふ》たえぬ悲痛の傷うけて、
その重傷《おもきず》に世界を泣かしめて。
我はた惑《まど》ふ、地上の永滅《えいめつ》は、
力を仰ぐ有情の涙にぞ、
仰ぐちからに不断の永生の
流転《るてん》現ずる尊《たふ》ときひらめきか。
ああよしさらば、我が友マカロフよ、
詩人の涙あつきに、君が名の
叫びにこもる力に、願《ねがは》くは
君が名、我が詩、不滅の信《まこと》とも
なぐさみて、我この世にたたかはむ。
水無月《みなづき》くらき夜半《よは》の窓に凭《よ》り、
燭にそむきて、静かに君が名を
思へば、我や、音なき狂瀾裡《きやうらんり》、
したしく君が渦巻く死の波を
制す最後の姿を観《み》るが如《ごと》、
頭《かうべ》は垂れて、熱涙《ねつるゐ》せきあへず。
君はや逝《ゆ》きぬ。逝きても猶《なほ》逝かぬ
その偉《おほ》いなる心はとこしへに
偉霊を仰ぐ心に絶えざらむ。
ああ、夜の嵐、荒磯《ありそ》のくろ潮も、
敵も味方もその額《ぬか》地に伏せて
火焔《ほのほ》の声をあげてぞ我が呼ばふ
マカロフが名に暫《しば》しは鎮まれよ。
彼を沈めて千古の
前へ
次へ
全31ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石川 啄木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング