(そのまま死んでも
惜しくはない)ゆっくりと寝てみたい!
手足を誰か来て盗んで行っても
知らずにゐる程ゆっくり寝てみたい!

どうだらう! その気持は! ああ。
想像するだけでも眠くなるやうだ! 今著《き》てゐる
この著物を――重い、重いこの責任の著物を
脱ぎ棄《す》てて了《しま》ったら(ああ、うっとりする!)
私のこの身体が水素のやうに
ふうわりと軽くなって、
高い高い大空へ飛んでゆくかも知れない――「雲雀《ひばり》だ」
下ではみんながさう言ふかも知れない! ああ!
    ―――――――――――――――
死だ! 死だ! 私の願ひはこれ
たった一つだ! ああ!

あ、あ、ほんとに殺すのか? 待ってくれ、
ありがたい神様、あ、ちょっと!

ほんの少し、パンを買ふだけだ、五―五―五―銭でもいい!
殺すくらゐのお慈悲《じひ》があるなら!


  新らしき都の基礎

やがて世界の戦《いくさ》は来らん!
不死鳥《フエニツクス》の如き空中軍艦が空に群れて、
その下にあらゆる都府が毀《こぼ》たれん!
戦《いくさ》は永く続かん! 人々の半ばは骨となるならん!
然《しか》る後、あはれ、然る後、我等の

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