麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《あんな》男なら、何人|先方《あつち》で入れても安心だよ。何日《いつ》だツたか、其菊池が、記者なり小使なりに使つて呉れツて、俺の所へ來た事があるんだ。可哀相だから入れようと思つたがね。』と、入口の方へ歩き出した。『前に來た時と後に來た時と、辻褄が合はん事を云つたから、之は怪しいと思つて斷つたさ。』
私は然し、主筆が常に自己《おのれ》と利害の反する側の人を、好く云はぬ事を知つて居た。「先方《あつち》が六人で、此方よりは一人増えたな。」と云つた風な事を考へて玄關を出たが、
『君、二面だらうか、三面だらうか?』
と歩きながら小松君に問ひかけた時は、小松君は既に別の事を考へて居た。
『何がです?』
『菊池がさ。』
『さあ何方《どつち》ですか。櫻井の話だと、今日から出社する樣に云つてましたがね。』
私共がドヤ/\と鹿島屋の奧座敷に繰込んだ時は、既《もう》七人許り集つて居た。一人二人を除いては、初對面の人許りなので、私は暫時《しばらく》の間名刺の交換に忙がしかつたが、それも一《ひと》しきり濟んで、莨に火をつけると、直ぐ、眞黒な顋鬚
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