り》構はず狎戲《ざれ》る、妙な姿態《しな》をする。止宿人《おきやく》の方でも、根が愚鈍な淡白《きさく》者だけに面白がつて盛んに揶揄《からか》ふ。ト、屹度《きつと》私の許へ來て、何番のお客さんが昨晩《ゆうべ》這※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《こんな》事を云つたとか、那※[#「麻かんむり/「公」の「八」の右を取る」、第4水準2−94−57]《あんな》事をしたとか、誰さんが私の乳を握つたとか、夏になつたら浴衣を買つてやるから毎晩泊りに來いと云つたとか、それは/\種々《いろ/\》な事を喋《しやべ》り立てる。私はよく氣の毒な女だと思つてたが、それでも此滑稽な顏を見たが最後、腹の蟲が喉《のど》まで出て來て擽る樣で、罪な事とは知り乍ら、種々《いろ/\》な事を云つて揶揄《からか》ふ。然も、怎したものか、生れてから云つた事のない樣な際敏《きはど》い皮肉までが、何の苦もなく、咽喉から矢繼早に出て來る。すると、芳ちゃんは屹度《きつと》怒つた樣な顏をして見せるが、此時は此女の心の中で一番嬉しい時なので、又、其顏の一番|滑稽《おどけ》て見える時なのだ。が、私は直ぐ揶揄《
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