二號活字を使つたり、或る酒屋の隱居が下女を孕《はら》ませた事を、雅俗折衷で面白可笑しく三日も連載《つゞき》物にしたり、粹界の材料を毎日絶やさぬ樣にした。詰り、「毎日」が一生懸命心懸けて居ても、筆の立つ人が無かつたり、外交費が無かつたりして、及びかねて居た所を、私が幸ひ獨身者には少し餘る位|收入《みいり》があるので、先方の路を乘越《のつこ》して先へ出て見たのだ。最初三面主任と云ふ事であつたのを、主筆が種々と土地の事業に關係して居て忙しいのと、一つには全《まる》七年間同じ事許りやつて來て、厭きが來てる所から、私が毎日總編輯をやつて居たので。
土地が狹いだけに反響が早い。爲《す》る事成す事直ぐ目に附く、私が編輯の方針を改めてから、間もなく「日報」の評判が急によくなつて來た。
恁《か》うなると滑稽《をかしな》もので、さらでだに私は編輯局で一番年が若いのに、人一倍大事がられて居たのを、同僚に對して氣耻かしい位、社長や理事の態度が變つて來る。それ許りではない、須藤氏が何かの用で二日許り札幌に行つた時、私に銀側時計を買つて來て呉れた。其三日目の日曜に、大川氏の夫人《おくさん》が訪ねて來たといふの
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