は、怎したものか、何か事のある毎に、「毎日」の行動に就いて少からず神經過敏な態度を見せて、或時の如きは、須藤氏が主として關係して居る漁業團體に、内訌が起つたとか起りさうだとか云ふ事を、「毎日」子が何かの序に仄めかした時、大川氏と須藤氏が平生《いつ》になく朝早く社にやつて來て、主筆と三人應接室で半時間も密議してから、大川社長が自分で筆を執つて、「毎日」と或關係があると云はれて居る私立銀行の内幕を剔《えぐ》つた記事を書いた。
が、私が追々と土地の事情が解つて來るに隨《つ》れて、此神經過敏の理由も讀めて來た。ト云ふのは、大川氏が土地の人望を一身に背負つて立つた人で、現に町民に推《お》されて、(或は推《お》させて、)道會議員にもなつて居るけれど、町が發達し膨脹すると共に種々な分子が入交《いりこ》んで來て、何といふ理由なしに新しい人を欲する希望が、町民の頭腦に起つて來た。「毎日」の西山社長は、正に此新潮に棹《さをさ》して彼岸に達しようと焦慮《あせ》つて居る人なので、彼自身は、其半生に種々な黒い影を伴つて居る所から、殆ど町民に信じられて居ぬけれど、長い間大川氏と「日報」の爲に少からぬ犧牲を拂はさ
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