えられた。私も「吾々の詩はこのままではいけぬ」とは漠然とながら思っていたが、しかしその新らしい輸入物に対しては「一時の借物」という感じがついて廻った。
そんならどうすればいいか? その問題をまじめに考えるには、いろいろの意味から私の素養が足らなかった。のみならず、詩作その事に対する漠然たる空虚の感が、私が心をその一処に集注することを妨げた。もっとも、そのころ私の考えていた「詩」と、現在考えている「詩」とは非常に違ったものであるのはむろんである。
二十歳の時、私の境遇には非常な変動が起った。郷里《くに》に帰るということと結婚という事件とともに、何の財産なき一家の糊口《ここう》の責任というものが一時に私の上に落ちてきた。そうして私は、その変動に対して何の方針もきめることができなかった。およそその後今日までに私の享《う》けた苦痛というものは、すべての空想家――責任に対する極度の卑怯者《ひきょうもの》の、当然一度は受けねばならぬ性質のものであった。そうしてことに私のように、詩を作るということとそれに関聯した憐《あわ》れなプライドのほかには、何の技能ももっていない者においていっそう強く享《う
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