弓町より
石川啄木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蝋燭《ろうそく》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)夫婦|喧嘩《げんか》をして
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)なり[#「なり」に白丸傍点]
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食うべき詩
詩というものについて、私はずいぶん長い間迷うてきた。
ただに詩についてばかりではない。私の今日まで歩いてきた路は、ちょうど手に持っている蝋燭《ろうそく》の蝋のみるみる減っていくように、生活というものの威力のために自分の「青春」の日一日に減らされてきた路筋である。その時その時の自分を弁護するためにいろいろの理窟を考えだしてみても、それが、いつでも翌る日の自分を満足させなかった。蝋は減りつくした。火が消えた。幾十日の間、黒闇《くらやみ》の中に体を投げだしていたような状態が過ぎた。やがてその暗の中に、自分の眼の暗さに慣れてくるのをじっと待っているような状態も過ぎた。
そうして今、まったく異なった心持から、自分の経てきた道筋を考えると、そこにいろいろいいたいことがあるように思われる。
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