》けねばならぬものであった。
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 詩を書いていた時分に対する回想は、未練から哀傷《あいしょう》となり、哀傷から自嘲《じちょう》となった。人の詩を読む興味もまったく失われた。眼を瞑《ねぶ》ったようなつもりで生活というものの中へ深入りしていく気持は、時としてちょうど痒《かゆ》い腫物《はれもの》を自分でメスを執《と》って切開するような快感を伴うこともあった。また時として登りかけた坂から、腰に縄《なわ》をつけられて後ざまに引き下《おろ》されるようにも思われた。そうして、一つ処にいてだんだんそこから動かれなくなるような気がしてくると、私はほとんど何の理由なしに自分で自分の境遇そのものに非常な力を出して反抗を企てた。その反抗はつねに私に不利な結果を齎《もたら》した。郷里《くに》から函館《はこだて》へ、函館から札幌《さっぽろ》へ、札幌から小樽《おたる》へ、小樽から釧路《くしろ》へ――私はそういう風に食を需《もと》めて流れ歩いた。いつしか詩と私とは他人同志のようになっていた。たまたま以前私の書いた詩を読んだという人に逢って昔の話をされると、かつていっしょに放蕩
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