ア餘りですよ。新田さん。學校の職員室へ乞食なんぞを。』
斯う叫んだのは、窓の硝子もピリ/\とする程|甲高《かんだか》い、幾億劫來聲を出した事のない毛蟲共が千萬疋もウヂャウヂャと集まつて雨乞の祈祷でもするかの樣な、何とも云へぬ厭な聲である。舌が無いかと思はれたマダム馬鈴薯の、突然噴火した第一聲の物凄さ。
小使忠太の團栗眼はクル/\/\と三※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]轉した。度を失つてまだ動かない。そこで一つ威嚇の必要がある。
『お通し申せ。』
と自分は一喝を喰はした。忠太はアタフタと出て行つた、が、早速《すぐ》と復引き返して來た。後には一人物が隨つて居る。多分既に草鞋を解《と》いて、玄關に上つて居つたのであらう。
『新田さん、貴君はそれで可いのですか。よ、新田さん、貴君一人の學校ではありませんよ。人ツ、代用のクセに何だと思つてるだらう。マア御覽なさい。アンナ奴。』
馬鈴薯が頻りにわめく。自分は振向きもしない。そして、今しも忠太の背から現はれむとする、「アンナ奴」と呼ばれたる音吐朗々のナポレオンに、渾身の注意を向けた。朱雲の手紙に「獨眼龍ダヨ」と頭註がついてあつたが、自
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