三兩也。馬代。くすかくさぬか、これどうぢや。くすといふならそれでよし、くさぬにつけてはたゞおかぬ。うぬがうでには骨がある。※[#終わり二重括弧、1−2−55]といふ、昔さる自然生《じねんじよ》の三吉が書いた馬代の請求の附状《つけじやう》が、果して大儒《たいじゆ》新井白石の言の如く千古の名文であるならば、簡にしてよく其要を得た我が畏友朱雲の紹介状も亦、正に千古の名文と謂《いひ》つべしである。のみならず、斯くの如き手紙を平氣で書き、亦平氣で讀むという彼我《ひが》二人の間は、眞に同心一體、肝膽相照すといふ趣きの交情でなくてはならぬ。一切の枝葉を掃《はら》ひ、一切の被服《ひふく》を脱《ぬ》ぎ、六尺|似神《じしん》の赤裸々を提げて、平然として目ざす城門に肉薄するのが乃《すなは》ち此手紙である。此平然たる所には、實に乾坤《けんこん》に充滿する無限の信用と友情とが溢れて居るのだ。自分は僅か三秒か四秒の間にこの手紙を讀んだ。そして此瞬間に、躍々たる畏友の面目を感じ、其温かき信用と友情の囁きを聞いた。
『よろしい。此室《こゝ》へお通し申して呉れ。』
『乞食をですかツ』
と校長が怒鳴つた。
『何だつてそれ
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