本も机も棄てっちまうさ。何もいらない。本を読んだってどうもならんじゃないか。
B ますます話せる。しかしそれあ話だけだ。初めのうちはそれで可いかも知れないが、しまいにはきっとおっくうになる。やっぱり何処かに落付いてしまうよ。
A 飯を食いに出かけるのだってそうだよ。見給え、二日|経《た》つと君はまた何処かの下宿にころがり込むから。
B ふむ。おれは細君を持つまでは今の通りやるよ。きっとやってみせるよ。
A 細君を持つまでか。可哀想に。(間)しかし羨《うらや》ましいね君の今のやり方は、実はずっと前からのおれの理想だよ。もう三年からになる。
B そうだろう。おれはどうも初め思いたった時、君のやりそうなこったと思った。
A 今でもやりたいと思ってる。たった一月でも可い。
B どうだ、おれん処へ来て一緒にやらないか。可いぜ。そして飽きたら以前《もと》に帰るさ。
A しかし厭《いや》だね。
B 何故。おれと一緒が厭なら一人でやっても可いじゃないか。
A 一緒でも一緒でなくても同じことだ。君は今それを始めたばかりで大いに満足してるね。僕もそうに違いない。やっぱり初めのうちは日に五|度《たび》も食事
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