一利己主義者と友人との対話
石川啄木

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)披露《ひろう》をして

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)五|度《たび》も

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
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[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
B おい、おれは今度また引越しをしたぜ。
A そうか。君は来るたんび引越しの披露《ひろう》をして行くね。
B それは僕には引越し位の外に何もわざわざ披露するような事件が無いからだ。
A 葉書でも済むよ。
B しかし今度のは葉書では済まん。
A どうしたんだ。何日《いつ》かの話の下宿の娘から縁談でも申込まれて逃げ出したのか。
B 莫迦《ばか》なことを言え。女の事なんか近頃もうちっとも僕の目にうつらなくなった。女より食物《くいもの》だね。好きな物を食ってさえいれあ僕には不平はない。
A 殊勝な事を言う。それでは今度の下宿はうまい物を食わせるのか。
B 三度三度うまい物ばかり食わせる下宿が何処《どこ》にあるもんか。
A 安下宿ばかりころがり歩
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