いた癖に。
B 皮肉るない。今度のは下宿じゃないんだよ。僕はもう下宿生活には飽き飽きしちゃった。
A よく自分に飽きないね。
B 自分にも飽きたさ。飽きたから今度の新生活を始めたんだ。室《へや》だけ借りて置いて、飯は三度とも外へ出て食うことにしたんだよ。
A 君のやりそうなこったね。
B そうかね。僕はまた君のやりそうなこったと思っていた。
A 何故《なぜ》。
B 何故ってそうじゃないか。第一こんな自由な生活はないね。居処《いどころ》って奴は案外人間を束縛するもんだ。何処かへ出ていても、飯時になれあ直ぐ家のことを考える。あれだけでも僕みたいな者にゃ一種の重荷だよ。それよりは何処でも構わず腹の空《す》いた時に飛び込んで、自分の好きな物を食った方が可《い》じゃないか。(間)何でも好きなものが食えるんだからなあ。初めの間《うち》は腹のへって来るのが楽みで、一日に五回ずつ食ってやった。出掛けて行って食って来て、煙草でも喫《の》んでるとまた直ぐ食いたくなるんだ。
A 飯の事をそう言えや眠る場所だってそうじゃないか。毎晩毎晩同じ夜具を着て寝るってのも余り有難いことじゃないね。
B それはそうさ。し
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